これも、雑誌連載当時から追っていた作品なのですが、アニメ化にあたり、その出来の良さに満足した逸品のひとつです。
昨今、いろいろと妖怪・鬼・地獄などのモチーフが取り上げられるようになっており、鬼太郎以後はあまりメジャーではかった「妖怪」が取り上げられるようになって、嬉しい限りです。
この作品は、そんな妖怪作品群の基礎知識が得られるうえに、登場人物も魅力的。
地味な、でもしっとり来るお話が好きな方にはお勧めの一本の『もっけ』をご紹介したいと思います。
目次
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等身大のキャラクター
本作に登場するキャラクターは、特別な人はいません。
主人公姉妹の能力としては「やたらととりつかれてしまう(見えたりはしない)体質の妹」と「見えてしまう」体質の姉。
妖怪バスター能力なんてありません。
そして二人おじいちゃん。
この人は、見えたりとりつかれたりもされないのですが、本人曰く「民間療法の一環」としての拝み屋を、一回5000円というリーズナブルな価格で、ごくごくたまーに、提供している、本業農家の、いってしまえば普通のおじいちゃんです。
主人公の友人達は、もうなんということもない田舎の中学生や小学生であり、「お化け」としての妖怪の噂話に花を咲かせたり、思春期ならではの、妖怪とは関係ない悩みなどを持っていたりする。
本当に等身大。
絶世の美女は居ないけど、クラスのあこがれの人程度の美人(おねえちゃん)がいるし、妖怪バスターの少年はいないけど、やたらととりつかれては姉を頼り、おじいちゃんを頼り、しかられ、やがて自力で解決するすべを徐々に身につけていく妹は居ます。
OPが和風!
OPから、いきなり和風です。
コーン、とこれでストライク。
それも、江戸のような和風ではなく、なんというか、田舎の和風。
日本の山村に昔からある風景と、それこそ古代から連綿と続いてきた生活の延長にある習俗。
決して荒唐無稽ではない、あたりまえにあるほどよい近代感。
OP初っぱなの渓流や紅葉と、少しだけハスキーなボーカルが非常に合います。
何となく『うたわれるもの』っぽい感じもしてイイ感じ♪
突き放す主義。それでも頼りになるおじいちゃん
おじいちゃんは、妖怪に対する対処の知識が大変豊富で、拝むことで払うこともできるのですが、それを推奨しません。
「昔からいるもので、いてあたりまえ。妖怪は変わらない。それは、人が変わっていくべき契機にもなる。」
とすら思っているフシが。
主人公姉妹が妖怪に接触して困っても、なかなか一筋縄ではいきません。
おねえちゃんの友達の兄がとりつかれたときも「ほっとけ」の一言ですし、その後のお払いでは、きっちりおねえちゃんの小遣いからお金を取ります。
妖怪にとりつかれるのは、自陣喪失や恋愛、昔からの禁忌を破るなど、多くの場合が自己責任であり、おじいちゃんはそこに介入するのを好みません
ただ、年長者として、そういったものへの対処法は知っているので、姉妹に対して自らの知識を授け、自力解決させることを推奨します。
これは冷たいからではなく、すでにおばあちゃんも亡くなっているし、自分の老い先もわからないということ、そして、「とりつかれ」としまい「見えて」しまう姉妹の今後のことを考えているのでしょう。
まだまだ子供である姉妹に、この先自立していくうえで、「飢えている人に食料を与える」のではなく「飢えている人に魚の釣り方を教える」という命題の、後者を選択しているのです。
それでも、まだまだ未熟な姉妹の手に余るようになったときは、ちゃんとフォローしてくれるいいおじいちゃんなのです。
妖怪は、退治する物じゃない
作中を貫いているのは
「妖怪とは、人間の原始信仰や、あるべきものとしてそこにあるあたりまえのものであり、迷惑をかけるものもあれば、害をなすものもいる。しかし、決して覆滅せしめるようなものではない」
という思想です。
日本には古来から妖怪が居る。
外国にも、そういった話は一般的でしょう。
おじいちゃんの言葉にも
「払うのではない、お帰りいただくのだ」
というものがあります。
妖怪と付き合っていくことが、自然と付き合っていくこと、四季晴雨と付き合っていくことと何ら変わりのないことだという、まさに日本人ならではの自然信仰観がこの作品の芯となっています。
実際、作中における妖怪騒動の多くは、姉妹が「見える」「酷いとりつかれかたをする」がゆえに「妖怪の仕業」と認識できるのであり、見えなければ、単に風邪や体調不良、悩みで思考がナーバスになっている(周囲がサポートしなければ、放置すればうつになるかもしれない)といった、人間社会におけるあたりまえの出来事ばかりだったりします。
妖怪の逆転換という手法
人間が直面する様々な問題。
それをあえて妖怪の仕業に当てはめたとき、日本には様々な妖怪伝承があるため、それを適用してみると、見事な妖怪もののできあがりです。
妖怪、ゾンビ、グールや吸血鬼という「人間の敵」がアクションを起こすのではなく、人間の営みの中で起きる様々な事象に妖怪をあてはめて、すぐに昔からの伝承が当てはまる。
日本では、こうやって妖怪が出来上がってきたのか、という知的好奇心を満たされ、同時に、それらの伝承をおじいちゃんが解説してくれて、ついで゜に日本古来の文化や習俗にも詳しくなれる。
妖怪ものの醍醐味とも言えるのではないかと思います。
それでもきっちり押さえるとこは押さえてます。
主人公の姉妹は、姉が美人清楚系、妹が元気な女の子系。
共に思春期の多感な時期に入っており、キャラデザの秀逸さもあいまって、魅力、クラっとくる破壊力はかなりのものが。
日本(このくに)の、今も続くたみびとの生活と、それが生み出した「妖怪」のこと、もっと知りたくありません?