2020年の東京オリンピックを予想?【AKIRA】の世界を振り返る

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『AKIRA』という作品はその知名度のわりに、最近の若い人は未見という方も多いのではないだろうかと思います。

何せ初出は1988年!
27年前!

絵が古いよねぇ~。懐かしいです。

これは、リアルタイムで見ていた人のほうが圧倒的に少ないはずです。
また、日本よりもむしろ海外で反響を呼んだ作品だったこともあるでしょう。

しかしながらこの『AKIRA』が、今なお、世界中の映画・ドラマ・果ては車や服飾といったデザイン関係の分野にまで多大な影響を及ぼし続けていることは疑いありません。

それもそのはず、この『AKIRA』を少年時代に観て深い影響を受けた世代が今まさに、40代第~50代という脂の乗り切った年齢で、世界中の第一線で活躍しているのです。

今回はそんな幅広いジャンルで影響を及ぼした『AKIRA』についてご紹介します。

そんなにすごい映画だったの?

27年というはるか昔のアニメで、同時期のものとしてはハウス名作劇場が全盛期、『シティーハンター』や『ボーグマン』、『機動警察パトレイバー』などが著名どころでしょうか。
『火垂るの墓』も、1988年です。

人によって「マイフェバリッド」なアニメは数あるとは思われますが、この時期はストーリーの質や設定の面白さなどがだんだんこなれたものが増え、アニメが子供のものから、青少年のものになりつつある時代でもありました。(大人のものになるには、あと10年を要しました)

それでも、前述した作品群は、作品としての総合的なレベルはともかく、作画などの面では、今見直すととてもあらが目立つものも多いでしょう。
ジブリ作品は除くとしても、これは多分に予算的な制約があったこともありますし、また、当時としては水準を満たしていればよしとされた、当然のことでもあります。

そのため、今、劇場で新作として放映して通じるか、と言えば、予算をかけたリメイクなどをしなければ難しいものが多いと思います。
しかし、『AKIRA』は別格、と、あえで断言させていただきます。

こればかりはもう、突出していたとしか言いようがありません。

水準を大きく抜いたクオリティは当時としてはまさに「常識はずれ」でもあり、世界で初めて、まっとうに『映画作品』として世間に(特に欧米で)評価されたアニメ作品でした。

そこには「アニメだから」などというフィルターは存在せず、ニッチな分野におけるマニア受けというものをすら突き抜けた一本でした。

ストーリーなどの斬新性、それそのものは、当時の活況を呈していたアニメ界では似たレベルのものはありました。

しかし、デザインやセンス・作画レベル・音楽やカット・演出といった『映画』という総合的な評価において、傑出した作品だったのです。

『金田バイク』と呼ばれる、主人公の乗る赤い電動バイクなどはとりわけ有名で、今なおレプレカを自作したりする人が世界中におり、メーカーやデザイナーが新しいモデルのコンセプトとして明確に『金田バイク』の名を出すほどの強烈さです。(つい先日も、欧米のとあるメーカーが近未来的なデザインのバイクを発表した際、デザイナーがその名を出していました)

作画レベルや光のエフェクトなどは「本当にこれがセル画なのか」と目を疑うばかりであり、音楽などの面でも、南洋楽器やボイス効果音のみを使用した、今で言うボイスパフォーマンスをメインに据えた芸能山城組の起用など、今にして思えば「チャレンジゃブルすぎるだろ」と突っ込みたくなるほどのものだったのですが、これが見事に大当たり。

「映画」に求められるあらゆる要素が高い次元でバランスした快挙でした。

海外での影響は本当にすさまじく、まだ、燃えも萌えもジャパニメーションもまったく浸透していなかったにもかかわらず、驚きと賞賛と熱狂をもって迎えられ、おそらく日本のアニメ史上、最も海外で熱烈な支持を受けた作品だといえます。

ハリウッド実写版の為に描かれたJames Clyne氏のコンセプトアート

ジブリ映画などの芸術性が本格的に評価され始めたのはこれより後のことですし、ひたすら娯楽を前面に押し出した作品でここまで支持を集めた映画は、邦画としては、かつての黒澤映画以来のことだったといえます。

この映画のヒットによって、国内では普通に白黒印刷で流通していた原作漫画(原作も監督も、大友克洋)が、国外向けにアメコミ調のカラー判で出版され、日本語訳を待ちきれないファンがそれを逆輸入する事態になったり、スペインで行われたイベントでは、熱狂的過ぎるファンによって、展示してあった金田バイクのレプリカが盗難に遭うといったことまで起きました。
ちなみにこの時のレプリカバイクの行方は、今に至るも様として知れません。

さらに、フランスの現代美術界では、AKIRAを知らない者は「モグリ」とまで言われたそうですが、これはあくまで噂です。(昔のことですので)

サイバーパンクであり、凄惨なバイオレンスであり、未来世界(もう今現在です)を描いた硬派SFであり、なんというか、その後流行ったものが、実はすべてここにあったものだったという衝撃。
ぜひ、若い人にも一度鑑賞してもらいたいところです。


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そして、それにはある“理由”があります。

実現した2020年東京オリンピックと予測された世界

作品世界は2019年の東京。
とある大事件によって、東京は一度壊滅しており、その後の再開発と復興のシンボルとして、2020年には東京オリンピックが予定されていて、工事が進められています。

街の治安は決してよいとは言えず、主人公を含めた少年愚連隊が抗争を繰り返し、政治テロが頻発。治安維持と、低下した国力を補完するため、大規模とはいえないまでも、正式な軍隊が整備されており、その軍によるある研究が、物語の骨子となっています。

その研究とは、超能力を持つ子供を軍事利用のため集めたものだったのですが、その過程で、研究対象であった少年「アキラ」の力が暴走。
それは、ただ一人の人間の精神が、核爆発並みのエネルギーを暴走させるというケタはずれのものであり、その根源は、生命の進化エネルギーというタブーに触れたため、というものでした。

逆説的に言えば、太古の昔から連綿と続いてきた生命の進化というエネルギーはそれだけのポテンシャルを持つものである、という解釈もできます。
本編は、暴走族の少年「鉄男」がバイクで走っているさなか、軍の研究施設から逃げ出した子供の超能力によって転倒、大怪我をします。
研究そのものを秘匿していたため、子供の存在と逃走の事実隠蔽を図るべく、軍は鉄男を軍管轄の施設に強制連行。

そして、図らずもその鉄男自身が、かつて暴走を起こし、東京を壊滅させた「アキラ」に迫る資質を持っていることが発覚し、軍の研究対象に。

しかし、徐々に覚醒していく自らの絶対的な力によって、当惑から増長、そしてやがては力に呑み込まれるように、鉄男は軍の施設を破壊、殺戮と破壊を繰り返し、かつての不良仲間まで殺してしまいます。

そして主人公、あの「金田バイク」を駆る健康有料不良少年「金田」は、仲間であり、幼馴染でもあった鉄男を助けるため、テロリスト組織と合流、研究所へ侵入するものの、やがて力を振りかざして暴走し、仲間を殺した鉄男を止める、あるいは殺すため、対決することに。
本作中における軍は一見悪役のようにも見えますが、また、実際悪いのは悪いのですが、別の側面としては、一度触れられて、解き放たれてしまった莫大なエネルギーの制御、封印にこそ真意があるため、一概に単純な悪役とはなっていないあたりが心憎いです。

「見てみろ、この慌て振りを。怖いのだ、怖くてたまらずに覆い隠したのだ。恥も尊厳も忘れ、築き上げて来た文明も科学もかなぐり捨てて。自ら開けた恐怖の穴を慌てて塞いだのだ。」

事件を誘発させ、クーデターまがいのことまで行う人物の台詞です。
その真意が、人類が扱うにも触れるにも早すぎ、また巨大すぎるエネルギーに対する畏怖と使命感を含んでいる名言でした。

まさしく、肯定するにしろ否定するにしろ、今まさに原子力と直面している私たちにとって、感じさせる部分が多い言葉ではないでしょうか。

あるいは、70年前にその扉を開き、その後反核兵器運動に身を投じたアインシュタインも、もしかしたらこのような心理だったのではないかと思います。

ストーリーの解説はここいらでおいといて、作中で描かれた、今私たちが暮らす現代の近未来予測がかなりな部分で当たっていることに触れてみたいと思います。

まず、2020年東京オリンピックは確かに偶然ではあるのですが、奇妙な因縁を感じます。
世相というか、描かれている世界観が27年前とは思えないくらいに的確。

現在は2015年ですが、4年後にはこうなっていてもおかしくないような町並み、そして日本という国の衰弱と退廃感は、まさに現在進行形。

ファッションなどはむしろ現在と近く、本当に4年後にはこんな感じかな、なんて思わせられます。

モチーフである「超能力」は、人間が手を触れてはいけなかった、制御できないエネルギーという意味では、まさに今の原発問題を想起させますし、また、それについて全否定しているわけでもありません。
扉は開けてしまった。もう後戻りはできない。
そういった思想が、人間による、根本的には制御不能の力というものに対する対峙の仕方のありようとして描かれており、考えさせられます。

繰り返しになりますが、27年前です。

まさか震災による原発事故まで予想していたわけではないはずなのですが、今さかんに議論されている原発問題を連想するような「力」について、両論合わせて指摘してみせていることに感嘆を禁じえません。
そして、話題の金田バイクが、実は電動モーターで動く代物なのですが、すべての車両が電動一辺倒というわけでも、どうもないらしい。

あるいは、あと4年したら、このくらいの比率で電動車両とガソリン車両の交代が起きているのではないかな、とも思わせられます。
東京オリンピックも含め、奇妙な予言書のようにもなった本作品でした。
『秒速5センチメートル』や『攻殻機動隊』の直後に見ても違和感のない、世界の映画史に不朽の名作として足跡を残した本作、若い人にこそ、ぜひ。

  • B!